サーヴ・ザ・サーヴァンツ
犬山さんはプロフェッショナルだった。
何のプロかというと、勤め人のプロなのである。ただし職業は不明だ。
犬山さんは「とら」によって神田が破壊されたときも律儀に出社したのだという。何の仕事をしているのかは不明だったが、兎に角出社したのだという。
ぐちゃぐちゃに分断されてしまった交通網を横目に、ハッハと息を切らしながらお茶の水の職場まで駆けて行ったらしい。神田の一件については下記を参照のこと。
「犬山さん、本当に真面目なんですね」
ぼくは皮肉を込めて言ったつもりだったのだが、犬山さんはそんなことにはまったく気が付かない様子で得意気に鼻を鳴らしていた。忠実であることが犬の特性であるのか、それとも犬山さん個人の特性であるのか、ぼくは判断に迷った。
「非現実の波が押し寄せて来たって会社は私を待っているんだよ。会社が私を待っている限り、私には会社に行く必要がある。現実はきみが思っているよりもタフなのさ」
犬山さんの主張にはぼくの苦手とするニュアンスがふんだんに盛り込まれていたのだけれども、きっとこれはこれで一つの生活の形なんだろうと思う。
彼の吐息は生臭く、やたらと「生きていること」を主張しているようでぼくは参ってしまった。